2012年4月24日火曜日

見てはいけないものを見て……

 チャイナ・ミエヴィル著「都市と都市」、読了です。
 久々に海外SFを堪能しました。
 ふたつの国の大部分が重なり合っていて、その国で暮らす人たちは、異国の人や建物、車やペットなどを見ないようにして生きています。そんなあり得ないような都市で起った殺人事件から、物語は始まります。以降、ネタバレ含みます。ミステリーですので、本編を先にお読みください。
 まさに奇想小説であり、最初に僕が想像したような、混ざり合ったイスラエルとパレスチナのようなものではなく(大森望の解説によると、そういったプランが実際に米国の政治学者のあいだであったらしい)、もっと荒唐無稽なものらしいとわかります。ミステリー仕立てのストーリーは、この荒唐無稽な都市で語られる都市伝説(さらに荒唐無稽な!)を巡り進行していきます。
 僕は、どこからかその都市伝説上のオルツィニーと呼ばれる都市が忽然と現われそうな期待で読み進めたわけですが、いい意味で裏切られました。物語は、この荒唐無稽な都市の常識の範疇で終始します。著者は都市が重なり合ってしまった原因には言及していないし、作中で過去に何があったのかの詳しい説明もなく、これらは読み手の想像に任されます。都市が重なり合った<クロスハッチ>部分では、異国である街を見ることはできず、互いに異国である人同士も見ることはできません。しかし、その人物を異物だと認識するためには、見なければならないわけで、そのため、このふたつの国では、見ていないようなふりをすることを義務づけられています。
 ただ、一般的な都市そのものが、もしかすると<クロスハッチ>したものかもしれないし、それを言えば、人の暮らしそのものが<クロスハッチ>したものかもしれない、そんなことも思ってしまいます。見てしまったのだけれども、見なかったことにしないといけないような……。人が生きていく中で、どれほどそういう事態があることか。あるは、そういう気遣いを求められる場合が、どれほどあることか。w
 この作品の異常さは、それが国家レベルで行なわれているところです。互いに気遣う両都市から抜けだし、主人公ボルルは最終的には<ブリーチ>に行きます。その結果、ボルルは集合の全体に対して自由になった一方、どちらの集合からも認識されない存在となってしまったわけです。いわば、幽霊のようなものです。画像編集ソフトのレイヤー機能のように、多重構造の階層を一段上ってしまい、ボルルは空気のようにふたつの都市に拡散したかのようです。その意味するところが、世捨て人のようでもあり、下層構造を俯瞰する霊のようでもあります。
 あるいは、意味などないのかもしれません。何かのアナロジーであることは、幻想や奇想には必要ないですからね。

2012年4月9日月曜日

法律遵守の海賊たち

 笹本祐一著「ミニスカ宇宙海賊(パイレーツ)」、読了です。
 アニメ観ていて気になった箇所がいくつかあったので、原作読んでみました。
 かなりな質量の太陽光帆船が、七日間という短時間でハビタブルゾーンにある惑星から恒星をまわって帰ってくるためには、どれほどの面積の帆が必要なのだろうか、などと考えながら読んでしまいましたが、このスペオペのノリというか、勢いというか、こういうの好きです。
 アニメでは、オデット二世号の背後で星が瞬いたり、真空中でハッチの開閉音が響いたりして、それがかなり気になってしまいました。電子戦で電力が足らなくことの理由ももっと欲しいと思っていたところ、原作ではきちんと書かれてあるのですね。それにバーベキューロールするオデット二世号にはりついた茉莉香が、恒星がオデット二世の陰に入った瞬間に見た天の川銀河も、たぶん、瞬いてはいないし、通信機から聞こえてくるヨット部の部員たちの呼吸音しか聞こえないという記述もあって安心しました。
 たぶん、実際に宇宙で行なわれる戦闘行為なんていうものは、想像以上に視覚的には地味なもので、アニメにするのって大変そうなんですよね。忠実に描いてしまうと、ひどく退屈で地味な作品になってしまいそうです。
 一定のルールのなかでだけ有効な免許を持ち(私掠船免状)、国家の決めたルールに従って営業するだけの団体を「海賊」と呼べるかどうかはともかく(もはや「賊」ではないような……。かなり悩みました。決められたルール以外の略奪行為なども行なっていれば海賊だと思えるのですがw)、海賊たちがじつはいい人、というか、あまり悪人ではない海賊というか、そんなお話しのなかの「海賊」にありがちな海賊たちのお話しです。
 しばらく付き合ってみたいと思います。