2011年9月15日木曜日

完璧な主人公

 山本弘著「詩羽のいる街」、読了です。
 山本弘はSF作家だという先入観からか、主人公の詩羽を、途中までずっとアンドロイドだと思っていました。(^_^;)
 でも、詩羽から受ける印象というのは、もしかすると「アンドロイドのようだ」で正しいのかもしれません。それほど彼女の思考が論理的で、埋めるべきパズルの形状を探し出す能力が、とても人間とは思えなえなかったからです。
 売買の仲介をした場合、その仲介者が経費以上の金銭を得る(これが利益)というのが、普通の人間の行いです。利益を得ることによって、人は自分の時間を持つことが可能になり、安心を得ます。詩羽も、ポイントを得ることで、仲介の対価は得ているようですが、それが等価交換、というか、物々交換のようになっていて、経済的には利益を得ていません。ただし、詩羽はそのかわりに、人の関係を築いて、その関係を利用して(共生関係)生きています。
 たぶん、普通の人間であれば体力的にも精神的も辛いであろう生活を難なく乗り切り、人心を掌握し、人のネットワークを記憶し、欠けたパズルのピースをピタリと当てはめていく詩羽は、僕にとって人ではなく、高度な演算を一瞬で終わらせてしまうコンピュータのように思えてしまうのですよね。
 「アイの物語」のアイビス(まさに彼女はアンドロイド!)と共通するような詩羽の思想は、たぶん山本弘自身の思想なのだろうと思います。多くの人が、このような論理的な思考が可能で、善意に満ちていれば、福島原発事故への人々の対応ももっと違ったものになっていたのでしょう。この事故では、風評に翻弄される人々が世界中にいるという事実をあらためて実感しました。山本は、このように論理的ではなく、感情で突っ走ってしまうような人々にあふれたこの世界へ、作品を通して挑戦しているかのようでもあります。

 ただ……、「いい話」だったのですが、うまく行きすぎな気もします。山本弘の理想は、こうなのかもしれませんが……。

2011年9月4日日曜日

アイデアは面白いのだけど

 野尻抱介著「ロケットガール4 魔法使いとランデブー」、発売されて四年目にしてようやく読了です。買い逃してしまった文庫本で、古本で買おうとする値段が高くて買えなかったのが、久しぶりに探してみたら千円以下になっていましたので、即購入です。
 で、野尻さん、ここで「はやぶさ」ネタを書いていたのですね。どうしてこの人が「はやぶさ」ネタを書かないのかと思ってました……。
 野尻の小説は、良くも悪くもSFというジャンル小説の極みのような位置づけであり、その内容というのが決して文学的ではないところに、良さがあると思うのです。(ああ、すいません、こんなこと書いて!w)
 ただ、なぜか最近その文学的ではない部分に物足りなさを感じているのも、正直な感想です。
 久しぶりに野尻の本を読んでみようと思ったのは、SFマガジン20011/8月号で「初音ミク」の特集をやっていて、その雑誌で知った野尻の2008星雲賞受賞作品「南極点のピアピア動画」を読んだのがきっかけなのですが、その作品も、少し物足りなかったのですよね。
 ハードSF的に、アイデアとしては面白いと思うのですが、アイデアだけで終わってしまっているような気もしています。ロケットガール4の中編「魔法使いとランデブー」にしても、ゆかりとマツリが、スキンタイト宇宙服だけで大気圏突入してしまうのは、向井さんの説明で予測できてしまうのですよね。で、予測通りの物語を読まされるから、たとえその行動がとんでもないことであっても退屈です。もう一捻り欲しいところです。
 ハードSFといえども、物語の面白さは必要です。小説なので……。(^_^;)

2011年9月1日木曜日

特撮を知らないと損をする一例

 山本弘著「地球移動作戦 上下」、読了です。
 地球を移動させるためだけに書かれた小説ですね。(^_^;)
 SF的な大仕掛けや考証は楽しそうなのですが、物語としては少しつまらないなぁ。「妖星ゴラス」へのオマージュだそうで、僕は「妖星ゴラス」を知らなかったため、単純に普通のSFとして読んでしまったわけなのです。つまり、「妖星ゴラス」を知らない人間は読んじゃダメってことなのでしょうね。
 山本の作品には必ずトンデモを唱える個人や団体が登場し、書き手として山本は、自身が合理的な考え方である立場からその非合理さを暴き、糾弾しようとする姿勢がうかがえます。山本の合理さには善意や優しさも含まれていて、その思想が作品の中で開花したのが「アイの物語」なのだろうと思います。
 今回の「地球移動作戦」も、地球に接近するミラーマターでできた天体など存在しないなどとする団体やいくつかの宗教団体が登場し、事実をねじ曲げ、自分たちの主張を押しつけます。これに対する山本の善意とは、科学的な知識であり合理性です。こうやって書くと、山本の作品って、なんだか社会科学の人と自然科学の人の対立を描くJP・ホーガンの作品じみていますね。w
 こういった善悪の二極化のような現象が起ってしまって、それがこの作品の面白さを多少スポイルしているような気がしています。その二極化の中の、グレーゾーンのようなところにいたジェノアPが、テロリストの計画を未然に防いだり、設定年齢を低くして主人公の魅波ともっと絡めたり、もう少し物語を牽引してもよかったんじゃないでしょうか。
 たとえば、映画「セカンド・アース」を制作したとき、ジェノアPはまだ子供だったということに変更し、魅波と同世代にして、過去の遺恨を乗り越え、恋愛関係に進展。このふたりをくっつけてもよかったかも!w パーソナリティのよくわからないシリンクスのような女が相手よりは、面白そうな気がします。っていうか、魅波がシリンクスのどこを好きと思っているのかも、よくわからないんですよね。(^_^;)

 いやいや、違う。
 この小説の楽しさは、そんなところにあるのでなくて、あくまで「妖星ゴラス」へのオマージュだというところにあるのでした。忘れるところだったよ。(^_^;)